2022年04月28日

ジェイン・ジェイコブス都市論集

ジェイン・ジェイコブス都市論集 Vital Little PlansThe Works of Jane Jacobs

編:Samuel Zipp & Nasan Storning 訳:宮崎洋司


この本は「アメリカ大都市の死と生」に集大成された、著者がヴォーグ、ニューヨーク・タイムズ・マガジン、アーキテクチュアル・レビユーなどに書いて来た都市論と、その後も探求した都市経済学のサブテキストである。高層オフイスビルについての対談で、中心部にステータスとして建てられた高層ビルは捨てられ、大企業は郊外の倉庫のような広いスペースに移動している、データ通信の発達で集中した場所でビジネスを行う必要はなくなった。しかし高層ビルは他用途への転換には向かず、都市中心部の荒廃と郊外の搾取によるインフラ整備予算への圧力の原因となる。都市を経済活動の面から見るにはケインズのようにマクロな統計を分析し、演繹的に一つの結論を出すやり方は具体的にどの都市にも当てはまらない。方向を決めずに都市内の局地的な商業の動きなどミクロなものを積み上げて、遠い結果を見ず短いスパンで考えねばならない。それ故立地条件、歴史、住人の人種を含めたメンタリティーなど極端に多い変数を持った都市に対して国、州など上位の自治体が方針を決めて予算を配分するやりかたでは、大規模な都市改造計画やスラム解消団地などがうまく行かないと述べている、これは中央集権から都市国家指向への変更であり、アンチ・グローバリゼーションである。

さて晩年の世界銀行との対談で次のように言っている。「最も重要な考え方は、農業時代の凶作の経験から直接生まれました。これは供給、需要、価格の間には、なんらかの関連があるという考え方です。豊富にあるものは稀少なものと違って価格が安く、使い捨てにしてもまったくといっていいほど、残念に思うことはありません。森林は豊富にあると見られていました。不愉快なことですが同様に、土壌、水、新鮮な空気も豊富にあるため、安価で自由に使えました。今でもこのように考える人はたくさんいます。ありあまるほどいる人間の命は、安価で自由に使えると解釈されるかもしれません。そうであったら、普通の愛国心の強い市民が異常な殺裁を受け入れ称賛するようにさえなったでしょう。異常な殺裁とは、暫壕戦、マスタードガス攻撃、意図的な飢僅、ドイツの電撃戦、カミカゼやナパーム攻撃、ジェノサイド、民族浄化、ジハード、自爆テロ、地雷、さらには、説得力はあるものの狂気の超愛国主義者の狂気のビジョンにとって、その存在が不都合になった人たちを無差別に死に追いやったことなどです。」

著者は世界の現状を地獄絵として見せてくれているように思える。鈴木志朗

posted by 建築ネット at 13:42| ニュース

2022年04月22日

最近読んだ本 2021.1#1 ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか 近距離移動が地方都市を活性化する

最近読んだ本 2021.1#1 ドイツのコンパクトシティはなぜ成功するのか 近距離移動が地方都市を活性化する著:村上 敦 学芸出版社

私は日本人の書いた本はほとんど読まない、著者は日本人だがドイツ在住で、都市交通計画のコンサルタントをしている。ドイツ南西部フライブルクを例にどの様な経過をたどってモータリゼーションや人口減少による国の破綻を防いで、先の道を探ってきたか、逆になぜ日本はコンパクトシティと地方の過疎化対策に失敗し、国の経済破綻を招いたかを論じている。私の住んでいる市も国の方針とやらで闇雲公共施設統合、縮小を進め箱物の造り替えと、中心部に大規模な駐車場、商業施設の整備などに金を掛けようとしている。著者は、人口減少と高齢化の中で、地方の小都市で高速の道路で、より大きな行政、商業サービスのある都市と結ばれるのを望んでいるのは奇妙だという。大きなインフラ建設業者や、マイカー関連企業は地元に利益を落とさず全て吸い上げてしまう。高齢の運転者に免許返納を呼び掛けているように、徐々にマイカーは減って金のかかった道路は無駄となり、買い物、行政サービス難民が増えるのが見えているのにと。また大都市側も中心部の高価な土地資源を失い、高くついた道路は車の増加で交通渋滞が起きて使い物にならなくなる。これを信号システムや自動運転などハイテクでカバーしようとしても、又大企業が利益を得るだけで地方経済に還元は無い。興味深いのは交通を高速化しても、市民の外出時間短縮、回数減にはならず、その分周りに何もない郊外の大規模店に行くという統計が出ていることだ。ドイツは1970年ごろマイカー社会を、低速の市電に方針転換した、これも結構高くつくが地元の電力会社などの企業が補填して、経済の小さなサイクルを回すようにしてきた。さてこの先はどうするのか、グローバルな温暖化対応、サスティナビリティの観点から行き着いたのは究極の低速交通、自転車と徒歩である。驚くべきことに全く信号や標識、道路の線引きの無い街、これを道路を自動車、自転車、子供の遊び場などに使う意味でシェアードスペースと言うが、幹線道路が交差する所に試験的に造り、ヨーロッパの他の都市でも追従が始まっているという。必ず行き詰まり・提案・反対・試行・修正を経て、粘り強く進んで来たのだ。

鈴木志朗建築事務所・NPO建築ネットワークセンター


posted by 建築ネット at 11:00| 最近読んだ本

2022年04月15日

最近読んだ本 2022.4.9 「アメリカ大都市の死と生」

最近読んだ本 2022.04.09 アメリカ大都市の死と生:ジェイン・ジェイコブス

The Death and Life of Great American CitiesJane Jacobs 訳:山形浩生 鹿島出版会


死と生というより死と生きざまと訳した方が良いかもしれない、アメリカの都市計画についての500ページの本だが難しくなく、街のおばさんの世間話のように痛快だ。都市というと一体何を指すか、範囲も曖昧な場所に建物と人間とその生活がぎっしり詰め込まれ、空間は道路、公園、看板、部屋などに細分された入れ子構造になっており、論じるときは結局エベネザー・ハワードの田園都市やル・コルビジェの輝く都市のように概念化するか、又は現代の複雑な情報化社会を目を閉じて撫でた象のように表現する他無い。しかし著者は違う、ニューヨークでスラムから再生を目指すグリニッジビレッジに住んで、ブルドーザー式の再開発反対運動の中で、自分が見て感じた事をそのまま都市論にしているのが彼女の強みなのだ。行政や設計者の頭の中に固めた過去の考え方を全てゴミ箱に投げ込み、再開発の帝王たる官僚をこき下ろして、都市はソフト・ハードの多様性によって人や仕事を惹きつけるのだという、ザ・ビレッジは彼女の何回もの逮捕による奮闘でスラム再生計画の大規模建て替えや高速道路による分断を拒否して生き返った。この本の執筆が始まったのは1958年で出版が61年だ、この時期各所で進められた再開発の重要な出来事として知られるシンシナティのプルーイット・アイゴーは1956年に大規模なスラム再開発団地として、建築家ミノル・ヤマサキ設計により完成したが、再スラム化してわずか16年で爆破除去された。都市を健全で活気あるものに育てるには道具立て(建築)と人間の多様性を壊さないようにせねばならないという言葉の通りに複雑な都市が変化したのは、偶然その時期に要因が揃ったからか、いや少なくも演繹的なものは星の数ほどある人間の心を満たせないというのが正しいのだろう。日本で建築審査会や公聴会に出てみて、実際街を見ていない同意先や手続きの多さ、出来る物の単純さに驚く。ジェントリフィケーションという言葉がある、ある場所が同じような階層の人間ばかりになるとそれ以下の階層への追い出し効果が出てくることだ、このままセキュリティーで閉ざされた孤島のような大規模アパートが並べば都市と呼ばれる物では無くなる、ジェイコブスに何故話を聞かなかったと言われるだろう。鈴木志朗


posted by 建築ネット at 12:29| 最近読んだ本

2022年04月08日

『管理費・修繕積立金の回収と免除』について


1 一般に採られている方法

管理費・修繕積立金の消滅時効は、5年となっていますので、期限までに所要の手続きをとる必要があります。もしそれまでに所要の手続きをとらない場合には、理事長に委任契約に基づく善管注意違反の問題が生じます。

そこで、管理費・修繕積立金の滞納者に対して、管理会社や管理組合からの催告、それでも支払いがない場合には、滞納管理費・修繕積立金について訴訟(支払督促、少額訴訟を含む)を提起することになります。(規約の定めがある場合は理事会決議、その規約の定めがない場合は総会決議によります。)

訴訟提起後、多くの場合は、欠席判決等により債務名義を取得することができます。裁判手続き確定後も滞納者からの支払いがない場合には、債務名義に基づき、滞納者のマンションに対する強制執行を申し立てることになります。(通常、預金等から回収することは困難です。)

しかしながら、当該マンションに銀行等の抵当権が設定されている場合、剰余を生ずる見込みがないことが多く、申立人が買受人になるかどうかが迫られることになります。(また、マンション管理組合法人でないと不動産の取得ができないという問題があります。)

また、裁判所から和解勧告があり、滞納管理費・修繕積立金の分割支払い、滞納管理費・修繕積立金に対する遅延損害金の免除、違約金(弁護士費用等の諸費用)の請求放棄を求められることがあります。この場合、理事長が安易にこれに応じますと、他の区分所有者との間の公平を害することになりますので、理事長に善管注意義務違反の問題が生じます。そこで、理事長は、総会を招集して和解すること及び和解内容についての承認を受ける必要があります。この場合の決議は普通決議によります。

2 建物の区分所有等に関する法律第59条に基づく区分所有権の競売請求による方法

この方法は、滞納者に対して弁明の機会を与えたうえ、総会の特別決議(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)で、区分所有法上の競売請求をすることで、判例により認められています。

この方法による場合、不動産強制執行の場合の剰余の有無の問題はありませんので、剰余がないことによる取り下げの問題はなく、競落まで至ることができます。

この場合の問題は、競落人が出ないことがあるということです。その理由は、競落人は、区分所有法第8条で、特定承継人として滞納管理費・修繕積立金の支払義務を負うことになるため、マンションの適正価格よりも滞納管理費・修繕積立金の額が高い場合には、競落すると不利益を被ることになるからです。

そのため、やむなく、競売申立人である管理組合が競落するしかなくなります。管理組合が競落人になりますと、債権者と債務所が同一人に帰属することになりますので、滞納管理費・修繕積立金は混同により消滅することになるのです。法律上は滞納管理費・修繕積立金の問題が解消したことになりますが、実態は、管理組合が滞納管理費・修繕積立金を負担したことになるのです。そのため、競落した区分所有権の転売や専有部分の有効活用でなんとか、回収を図るしかないことになります。

しかし、この競落するという方法は、管理組合が法人である場合に限られます。管理組合法人でない場合には不動産を取得することができないからです。通常、マンションの管理組合は、管理組合法人でないため、この方法は活用することができません。

3 管理規約と集会の決議による方法

 そこで、法人格なき社団である管理組合の場合、どうしたらよいのかが問題となります。

滞納管理費・修繕積立金が積み上がり、解決方法がないという状態が続けば、当該マンションはスラム化することになります。

しかし、この問題は、法人格なき社団である管理組合にとって、現時点において、法律上及び裁判上、未解決の問題となっています。

 検討すべきポイントは、区分所有法第8条の点と区分所有者間の公平の点です。

 滞納者(及び特定承継人)に対して、他の区分所有者全員の合意があれば、民法第519条で免除することができます。しかしこの免除の方法は、区分所有者間の公平を欠き、合意は至難のことです。それでも、将来の管理費・修繕積立金が納入されることを期待してよしとする合意が成立することがあるかもしれません。

そこで、考えられるのが、規約で、『滞納管理費・修繕積立金の額が、当該区分所有権の価格を超えることが明らかな場合で、他に滞納管理費・修繕積立金の回収が困難な場合には、集会の決議により、その額の全部又は一部を免除することができる。』と定める方法です。法的には総有説をとり、規約の定めと集会の決議で区分所有法第8条の問題と区分所有者間の公平の問題をクリアし、新たに譲受人を期待することができることになります。


但し、この方法は、先に述べたとおり、裁判所の判断を受けたことがない問題ではありますが、裁判所も、上記のような規約の定めであれば、マンション自律・自治の観点から規約の有効性を認めるものと考えます。

榎本 武光

posted by 建築ネット at 11:06| マンション管理

2022年04月01日

最近読んだ本2022.03.26


「まちづくり教書」著:佐藤滋・饗庭伸・内田奈芳美  鹿島出版会


私は10年ほど前佐藤先生の公演で実践されたまちづくりの方法を聞いて素晴らしいと思っていが、最近都市規模の問題幾つか抱えて先生の本を読むことになった。さてまちづくりという言葉は普段の生活圏での隣付き合いなど、ほとんど忘れかけたことを思い出し温かみを感じさせる。ところが私が関係することになった120mクラスのマンション計画の説明書には、公開空地とスーパー堤防の親水テラスによるまちづくりとあるが、周辺は前面道路を含めて幅8mほどの一方通行が多く、このような所に高層ビルが立ち並ぶのはちょっと想像し難い。著者たちはまちづくりという言葉が商業的に逆の意味を含んでいるように、それが意味する内容は生活者、行政、ディベロパーなどそれぞれ様々であるから、トップダウンで形式が先行した人間味のない計画、例えば20年を待たず爆破解体された、ミノル・ヤマサキ設計のシンシナチ、プルイット・アイゴーのスラム解消団地、ブラジルで歩きやすいと言われるクリチバに対しつまらないと言われるニーマイヤー設計のブラジリア等があるが、そういうもののアンチテーゼとして、外国の都市計画研究者が注目する日本の「まちづくり」の内容を分析して定義し、古い線引き・色塗りの計画や利害関係に縛られた区画整理をゼロから見直して、地域のアイデンティティーや人の気持ちから導かれた街を作る、それがまちづくりだと言うのである

あまり知られていないが地方でずいぶん進んでいる成功例があり、鶴岡、二本松など城下町計画見直しと整備、気仙沼、浪江町など災害復興、あるいはコミュニティーからの作り直し、夕張における産業構造の変化により空洞、分散化した街の再編など、またそれらの複合したケースある。これらを政府や自治体が定めた道路や建物など画一化した計画でなく、そこで活動する人や団体を掘り起こし、あるいは立ち上げてそれらに方法を付与し、結果を決めずに多様な意見を集めてゆるくまとめ、情報共有によって地方、国さらにグローバルなレベルに広げ実践の中で方向を決めて行く、そのために大学研究室などコオーディネーターが必要とされると述べている。

鈴木志朗建築事務所

posted by 建築ネット at 11:27| 最近読んだ本