1 一般に採られている方法
管理費・修繕積立金の消滅時効は、5年となっていますので、期限までに所要の手続きをとる必要があります。もしそれまでに所要の手続きをとらない場合には、理事長に委任契約に基づく善管注意違反の問題が生じます。
そこで、管理費・修繕積立金の滞納者に対して、管理会社や管理組合からの催告、それでも支払いがない場合には、滞納管理費・修繕積立金について訴訟(支払督促、少額訴訟を含む)を提起することになります。(規約の定めがある場合は理事会決議、その規約の定めがない場合は総会決議によります。)
訴訟提起後、多くの場合は、欠席判決等により債務名義を取得することができます。裁判手続き確定後も滞納者からの支払いがない場合には、債務名義に基づき、滞納者のマンションに対する強制執行を申し立てることになります。(通常、預金等から回収することは困難です。)
しかしながら、当該マンションに銀行等の抵当権が設定されている場合、剰余を生ずる見込みがないことが多く、申立人が買受人になるかどうかが迫られることになります。(また、マンション管理組合法人でないと不動産の取得ができないという問題があります。)
また、裁判所から和解勧告があり、滞納管理費・修繕積立金の分割支払い、滞納管理費・修繕積立金に対する遅延損害金の免除、違約金(弁護士費用等の諸費用)の請求放棄を求められることがあります。この場合、理事長が安易にこれに応じますと、他の区分所有者との間の公平を害することになりますので、理事長に善管注意義務違反の問題が生じます。そこで、理事長は、総会を招集して和解すること及び和解内容についての承認を受ける必要があります。この場合の決議は普通決議によります。
2 建物の区分所有等に関する法律第59条に基づく区分所有権の競売請求による方法
この方法は、滞納者に対して弁明の機会を与えたうえ、総会の特別決議(区分所有者及び議決権の各4分の3以上)で、区分所有法上の競売請求をすることで、判例により認められています。
この方法による場合、不動産強制執行の場合の剰余の有無の問題はありませんので、剰余がないことによる取り下げの問題はなく、競落まで至ることができます。
この場合の問題は、競落人が出ないことがあるということです。その理由は、競落人は、区分所有法第8条で、特定承継人として滞納管理費・修繕積立金の支払義務を負うことになるため、マンションの適正価格よりも滞納管理費・修繕積立金の額が高い場合には、競落すると不利益を被ることになるからです。
そのため、やむなく、競売申立人である管理組合が競落するしかなくなります。管理組合が競落人になりますと、債権者と債務所が同一人に帰属することになりますので、滞納管理費・修繕積立金は混同により消滅することになるのです。法律上は滞納管理費・修繕積立金の問題が解消したことになりますが、実態は、管理組合が滞納管理費・修繕積立金を負担したことになるのです。そのため、競落した区分所有権の転売や専有部分の有効活用でなんとか、回収を図るしかないことになります。
しかし、この競落するという方法は、管理組合が法人である場合に限られます。管理組合法人でない場合には不動産を取得することができないからです。通常、マンションの管理組合は、管理組合法人でないため、この方法は活用することができません。
3 管理規約と集会の決議による方法
そこで、法人格なき社団である管理組合の場合、どうしたらよいのかが問題となります。
滞納管理費・修繕積立金が積み上がり、解決方法がないという状態が続けば、当該マンションはスラム化することになります。
しかし、この問題は、法人格なき社団である管理組合にとって、現時点において、法律上及び裁判上、未解決の問題となっています。
検討すべきポイントは、区分所有法第8条の点と区分所有者間の公平の点です。
滞納者(及び特定承継人)に対して、他の区分所有者全員の合意があれば、民法第519条で免除することができます。しかしこの免除の方法は、区分所有者間の公平を欠き、合意は至難のことです。それでも、将来の管理費・修繕積立金が納入されることを期待してよしとする合意が成立することがあるかもしれません。
そこで、考えられるのが、規約で、『滞納管理費・修繕積立金の額が、当該区分所有権の価格を超えることが明らかな場合で、他に滞納管理費・修繕積立金の回収が困難な場合には、集会の決議により、その額の全部又は一部を免除することができる。』と定める方法です。法的には総有説をとり、規約の定めと集会の決議で区分所有法第8条の問題と区分所有者間の公平の問題をクリアし、新たに譲受人を期待することができることになります。
但し、この方法は、先に述べたとおり、裁判所の判断を受けたことがない問題ではありますが、裁判所も、上記のような規約の定めであれば、マンション自律・自治の観点から規約の有効性を認めるものと考えます。
榎本 武光
posted by 建築ネット at 11:06|
マンション管理